読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

Nanpa is Suicide

誰でも読めるが、誰にも読めないブログ。

薬を飲むか飲まないか。

「医者の意見じゃなくて、あなたの意見を教えて」

 

 かれは答えに窮した。自分の意見を言うことで、責任を負いたくなかったからだ。電話を耳から少し離す。かれは深呼吸する。

 

(そもそも、なんで薬を飲むか飲まないかで、他人に意見を求めるんだろう。自分の人生じゃないか。自分で決めろよ。)

 

 しかし、かれは実は嬉しかった。かれはこれまでの人生で、他人に頼られたことがなかったからだ。普通の男なら逃げすような理不尽な要求であっても、女の子に依存されることが嬉しくてたまらない。

 

「……どうなの?」

 

 彼女の声が聞こえた。さっきより、声が小さい。不安げな声で相手を急かす。

 

(ずるい女だ)

 

 かれは薄笑いを浮かべた。焦らしてやろう。そう簡単に、釣った魚に餌をやるわけにはいかない。

 

「どうだろうね……きみが飲みたいと思うなら、飲めばいいと思うし、きみが飲みたくないなら、飲まなければいいと思う」

 

 電話の向こうから、空気の震える音がした。

「あたしの話を聞いてないのね。あなたの意見を聞きたいだけなの。あなたが飲まなくていいと言えば、あたしは飲まないし、あなたが飲めと言えば、あたしは飲む」

 

 かれは唇を噛んだ。追い詰められた。いっそ男らしく、彼女の望む答え――ただ一言を、言おうかと思った。

 

(ここで屈してしまえば、ぼくは負けたことになる。これからも、同じ手口で責めてこられる)

 

 かれは右手で顎を撫でた。この状況を切り抜ける一手を考える。相手との関係を進めるために、あえて相手の望まないことを言う――自分にもっと依存させるために。

 

「おれが意見を言うと、余計に悪くなると思う。自分で決めたことなら、どっちを選んでも、きっといい方向に行くよ。きみは強い人だから、きっと大丈夫――」

「あたしを、突き放そうとしているんだね。それがテグチなんだ。みんなあたしに、同じことばかり言う。善人のフリした冷たい奴。ぜんぶわかってる。ねえ、バレてるんだよ? どう思う? ちょっとは恥を知りなさい」

 

 かれは狼狽した。電話を落としそうになった。切れ切れに息を吐く。

 

「どっちなの?」

 

 彼女の声がする。勝ち誇ったような――元気で力強い声だ。

 

(また一人ぼっちになりたくない。)

 

「おれは――」